2005年夏準々決勝 駒大苫小牧(南北海道)−鳴門工(徳島)

鳴門工  201000300=6
駒大苫  10000060*=7



05年の駒大苫小牧を語るにおいて欠かすことの出来ない試合その1である鳴門工戦を振り返ってみたいと思います。この試合は僕が初め て駒大苫小牧のアルプスで観戦するということで非常に楽しみにしておりました。この日のオーダーは前の日本航空戦とがらりと変わり ました。打撃好調の辻は初戦で2番を打っていたのですが、日本航空戦から3番に入りこの日も3番。そして2試合とも下位を打ってい た五十嵐を2番に上げました。で、5番青地、6番岡山、7番に捻挫のためスタメンから外れていた山口が戻り、8番に小山、9番に初 戦以来の先発松橋というオーダーになりました。おそらく、前の試合で2番に入り4安打の岡山をポイントゲッターにしたかったのでし ょう。で、本来なら5番なのでしょうが、左腕対策ということで青地5番、岡山6番。一方鳴門工は左腕田中暁がこの日も先発、最初は 9番を打っていた尾崎が1番に、堀江と藤が入れ替わり6番藤、7番堀江というオーダーを組んできました。

さて、この試合の先発は松橋ということで予想通りではあったのですが不安でした。いくら聖心ウルスラ戦で完封しているとは言え彼の ピッチングは信用できなかったのです。その不安がいきなり初回に出てしまいました。安打と四球、暴投で無死2・3塁のチャンスを作 ると鳴門工3番柳田主将の適時打と6番藤の適時打で2点を先制されてしまいます。一方駒苫はその裏に林主将の初球先頭打者本塁打で 1点を返すと、2回裏6番岡山の2塁打で1死2塁のチャンスを作ります。序盤で鳴門工の先発田中暁を捉えることができると思ってい たのですが、7番山口、8番小山が連続三振に抑えられてしまいました。この時僕はすごく嫌な気がしました。選抜で神戸国際大付の大 西投手に1安打完封負けを喫したことを思い出したのです。ここまで6つのアウトのうち5つが三振に抑えられたんですよね。そして、 5つのうち4つが右打者から奪ったものでした。

そして、そこから流れを掴んだ鳴門工は3回、2死2塁から藤の2塁打で3点目を取ります。ここで駒苫は松橋が降板し田中将大がマウ ンドにあがりました。一緒に観戦していた友人は、なんで田中先発じゃないんだと怒っていました。その言葉どおり、鳴門工の選手達も 松橋より田中の方が嫌だと言っていたその言葉通り、ここからの田中のピッチングが素晴らしかった。最初の打者7番堀江から2番村田 まで5者連続三振、6回までパーフェクト毎回の7つの三振を奪う好投で鳴門工を抑えていきました。

しかし、駒苫打線が田中暁を捉えることが出来ません。試合前香田監督がうちは本格派の投手の方が打ち崩しやすくて、こういう技巧派 の投手は苦手と言っていましたが、その通りの結果となってしまいました。ここまで田中暁を完璧に捉えていたのは林の岡山の左打者2 人だけ。4回2死から連続安打とダブルスチールで2死2・3塁のチャンスを作るのですが、山口がまたもや三振。右打者が田中暁に苦 戦を強いられていて、この山口と3番辻、4番本間はそれぞれ2三振。5回林が内野安打で出塁するも、五十嵐は三振。6回は内野ゴロ 3本で3者凡退。6回を終えて田中暁の許した安打はたったの5本、与えた四死球は0と1点は喫しているがそれ以降はほぼ完璧に駒苫 打線を抑えていました。

そして、この試合大きく動いた7回へと話は進んでいきます。7回表鳴門工は先頭打者の田中暁が四球で出塁。田中将大が初めて与えた 走者でした。しかし、鳴門工は西林が犠打を敢行したのですが、これがこの試合3つ目の犠打失敗となってしまいます。この当たりがこ こまで3点しか取れていなかった要因となりましたね。尾崎を三振に抑え2死1塁、このまま田中将大が抑えるかと思われたのですが、 続く村田が安打で繋がれ、柳田の適時打、上野の2点適時2塁打で計3点、6−1となってしまいました。田中将大はよく投げたのです が、駒苫アルプスにいた僕はさすがにもうだめだと思いました。

しかし、その裏です。この回の先頭打者は2安打の岡山。本来は彼の前に走者を出したかったのに、彼が先頭打者じゃなあと思っていた そんな中、2球目を打った岡山の打球は単なる1塁ゴロ。しかし、当たっている打者はどんな当たりでも安打になると言われるが、まさ しくその通りで、1塁手藤のグラブをかすめライトに転がっていきました。そして、この当たりで岡山はなんと2塁に進んだのです。ラ イトの西林は藤のグラブにかすめて、打球の勢いが弱まっていたのを知りませんでした。いつもの安打のつもりで、悠々と打球を取りに 行ったその隙を岡山は見逃していませんでした。そして、その走塁に慌てたのか西林の2塁の送球がワンバウンドになり、遊撃手尾崎は 取ることができず、さらに岡山は3塁へ。単なる内野ゴロが2塁打と失策で無死3塁のチャンスとなったのです。

まだ5点差があるので、ここから1個ずつアウトを重ねていけばいいという考えでいけばよかったのですが、鳴門工ナインにはこの一打 で何かがおかしくなってしまいました。続く代打佐藤を死球で歩かせると、小山に適時打を打たれ6−2となります。続く田中将大にな んと香田監督は犠打のサインを送ったのです。ここは拙いと思いました。もし、犠打で送って1死2、3塁となれば間違いなく林は敬遠 となるでしょうから。結局田中は犠打で送り、1死2、3塁で林を迎えることになります。ここは大きなポイントになる場面でした。し かし、ここで鳴門工は林を敬遠せず勝負に挑むと、林は期待に応えて2点適時2塁打。さらに五十嵐が2塁と中堅の間に落ちるラッキー な安打で繋げると、初球を打った辻の打球は遊撃手尾崎のミットを弾く失策で1点。そしてここまで全く当たっていなかった4番本間に も適時打が飛び出し6−6ついに同点に追いつきます。こうなると、完全に流れは駒苫で続く青地が又もや死球で満塁となると、この回 のミラクルを作り出した岡山が、そのミラクルを締めくくる中堅への犠飛でついに逆転。3点を取られたその裏一気に6点を取る大逆転 、7−6で駒大苫小牧が鳴門工を下し2年連続のベスト4に駒を進めることになったのでした。


この試合こそ、何でもない一つのプレーが試合を大きく変えることになった試合はなかったなと思います。改めて、冷静に振り返ってみ ますと、7回裏岡山の打球は何でもない1塁ゴロだと思うんですよ。それをきちんと取っていればこんな展開にはなっていなかった。さ らに、岡山の走塁は明らかに暴走で、西林が普通に返球をすればアウトだった。さらに、1死2、3塁で林を敬遠していればもしかした ら抑えれたかもしれない。林に適時打が生まれたことによって、球場の盛り上がり方が他とは違いましたから。この試合後のヒーローイ ンタビューは主将ということで林でしたが、この試合の最大の殊勲者は間違いなく岡山でした。この岡山は次の試合5番に抜擢され、さ らなる活躍をこの甲子園で見せることになります。